キミを知らない(4)
天候晴天、昼、街中。
レーザーが焦点を定めるように波線を描き獲物を追う。
息を潜め、どう出るかを一瞬で見定めなくてはならない。
風。
音。
あとは、勘だ。
「っだ!」
飛び出したのは右。
転がりながらワイヤーを先にあるパワードスーツに向かって射出する。
目標に直撃。
ただし。
「へ?」
それより先に、敵からのレーザーの焦点はワイルドタイガーの額にあった。
「はぁ」
ガラス越しに虎徹ことワイルドタイガーの動きを見ていたバーナビーは、どういう反応を取るべきか迷いながら、とりあえずため息をついて肩を落とした。
良くも悪くも彼の動きは彼のままだった。
いっそのこと、彼らしからぬ動きでもしてくれればちょっと面白かったのにと思うが、この結果を喜ぶべきなのだろうとも分かっているからバーナビーはため息をつくしかなかった。
正常通り。
全てが、記憶を失う前とそのままだった。
何度も繰り返したシミュレーションの結果は、彼が彼だという確実な証拠となって数値に現れていた。それは喜ぶべきことだった。
これならば恐らく実践に出たとしても、彼は今まで通りに動く。ならばいざというときバーナビーの行動も今まで通りでいいということだ。
共にヒーローとして出動すれば、恐らく今まで通りの言い合いとか気のあわなさを発揮しながら、それでもバディとしての息の合った動きを見せられるに違いない。
「タイガー! もっと考えて動けないのか! 折角のスーツが台無しになるじゃないか!」
「煩いよぉ斎藤さん」
相変わらずのマイク越しの斎藤の声はうるさく響き、虎徹はマスクを上げ、眉をしかめた顔を現した。
何もかもが変わらない。違うのは、記憶の有無だけという皮肉な状況だった。
この日、記憶を失ったと分かってから初めて他のヒーローたちと顔を合わせる。
一通りの出来事は伝えているものの、名前と顔が一致しないのは少し不便が生じると思った。だからバーナビーはあらかじめ用意した写真を元に名前をたたき込むことにした。
写真は虎徹のスマートフォンの中にあるものを見せた。
一人ずつ名前を教えながら指さしていくと、適当に相槌を打ちながら虎徹は名前を反芻していった。
写真は、数ヶ月前に全員で食事をしに行ったときのものだった。
トレーニングルームで各々動いていた中で、たまたま虎徹はドラゴンキッドことホァンの隣にいた。だから彼女が空腹を訴えたつぶやきを聞き漏らさず、「何か食いに行くか?」と提案したことに始まった。
夜のシュテルンビルトに繰り出し、未成年にはノンアルコールの。他のメンバーは全員アルコールの飲み放題で二時間ほど騒いだ。
途中で虎徹が写真を撮ろうと言いだし、オーダーを取りにきた店員を捕まえてシャッターボタンを押してもらったのだ。
顔出しヒーローとして名前と顔が割れているバーナビーに、一瞬店員は驚いた表情を見せたが、すぐに写真を撮ってくれた。
その時の、虎徹が撮影したものもいくつかあり、それを見せながらの説明となった。
写真の中では、バーナビーも笑っていた。
バディを組まされた当初なら考えられなかったが、今ではこうして笑うことができる。
そしてヒーローたちでこうして騒ぐなど、少し前ならあまり考えられなかったことだとも聞いたことがある。
すべてを作り上げたのは虎徹だ。
「なぁ、バーナビー」
はっとして虎徹を見ると笑っていた。
いつものように顔にくしゃりと皺を寄せ、目尻にも細かい皺を刻んでいた。
「ありがとな」
「え?」
「おまえになんか、迷惑ばっかかけて」
「何を今更。出会った頃からあなたはいつも僕に迷惑しかかけてませんよ」
ため息混じりに言うと、虎徹は唇を尖らせて反論した。
「そんなことねぇだろ」
「そんなことあります」
スマートフォンを虎徹に返し、バーナビーは立ち上がった。
「行きましょうか、虎徹さん」
「なんか、変なの」
虎徹とバーナビーがトレーニングルームにつくと、ほかのヒーローたちはすでに集まっていた。久しぶりに顔を合わせたことと、記憶の事に関しては皆知っていたので、虎徹にたいして口々に労いの言葉をかけた。
その中で一歩後ろでその様子を見ていたカリーナが呟いた一言に、虎徹が首を傾げた。
「何が変なんだ?」
「だって、タイガーは私たちの事覚えてないんでしょ? なんか、変。仕方ないって分かってるけど、なんか気持ち悪い」
素直な感想に虎徹は眉を下げて唇をゆがめた。
「仕方ないだろぉ。覚えてねーもんは覚えてねーんだから。えっと、カリーナ。名前は覚えたぞ」
両手の親指を立てて得意げに笑った虎徹に、ほかの面子もため息をついた。
「そういうところは変わってないんだな、虎徹」
記憶がなくなったとはいえ、性格そのものが変わるわけではない。バーナビーからの話でそう言われていたが、改めて対面してみると分かる。
周りの緊張感や雰囲気などお構いなしの、虎徹のあっけらかんとした脳天気さに。
「それだよ、タイガー」
突然ホァンが声をあげたので、全員驚いて顔を向けた。
無邪気な笑みを浮かべ、ホァンは言う。
「タイガーは僕たちのことをいつもヒーローの名前で呼んでたんだよ。たぶん、それが変なんじゃないかな」
「ヒーローの名前?」
「あぁ、そういえばそうですね。タイガーさんは基本的に僕たちの事をヒーローの名前で呼んでました。たとえば僕を、折紙とか」
知らない自分を、他人が知っている。バーナビーと話していてもよく生まれるその違和感は、ここでも感じた。
自分がおかしいということは重々承知していた。それでも、他人が知っている自分がいて、自分が知らない自分がいるということは、当事者からしてみればそれこそ気持ち悪い。
だがどう足掻いてもこの状況を打破する事はできない。同じような記憶をなぞっていき、昔の自分を作り出すしかない。
わかっていながらも、理不尽なこの現状に時折いらだちと、そして切なさを感じていた。
「虎徹さん?」
「あ、ああ、わりぃ」
時折見せるバーナビーの瞳の色に様々な感情を抱き、そして目をそらそうとする。どこかそれに既視感を感じながら。
「で、なんだっけ」
いつものように笑った。
気がついたら、自分がいったいどういう存在なのか曖昧な状態だった。
ここに存在しているのは確かだ。
だが、よく分からなかった。
自分のことが分からないと言うと笑われるかもしれないと思ったが、実際分からなかったのだ。
そん『最初の記憶』を思い出して、虎徹は左手の指輪を見つめた。
あまり喋らなくていい仕事。
たとえばCMとか、ヒーローに関するインタビューではない、バーナビーが主体のものとか。
ロイズがいくつかピックアップしてくれたそれをこなしながら、虎徹はどこか違和感を感じていた。
感じない方がおかしい。
会う人会う人が自分を知っていた。
だが自分は知らない。
確かに初対面の人もいたが、そうじゃない人もいた。だが、知らない。
小さく芽生えた違和感は、徐々に思考を占拠していた。
本当に自分は、彼らが求めるワイルドタイガーなのか。
自分は本当は、誰なのだろうか。
「明日から要請があったら君もでてもらうからね」
「え、俺もっすか?」
「もう十分だろ? そろそろヒーローとしてきちんと働いても大丈夫な時期でしょう? 異論は認めないよ。上とも話はそれで通ってるし、バーナビー君とも話がまとまっているんだから」
ロイズ突然呼び出されたかと思うと、寝耳に水な発言を聞かされて虎徹はしどろもどろにいいわけを口にした。
「いや、でもほら、まだ実戦には」
「元々君は実戦じゃないとだめなんだって言うタイプだったんだから。実戦にでて頭でも打てば意外と記憶が戻ったりするんじゃないのかね」
寧ろ、そうであってほしいのは誰もが考えるところではあった。
ゴーサインに了承したという相棒に悪態を吐きながら、虎徹はロイズの部屋を後にした。
その足で、頭をさっぱりさせるために顔でも洗おうと思い虎徹はトイレへと向かった。
勢いよく吐き出される水を顔にかけた。塗れた顔を鏡越しに見つめる。それが自分で、それが鏑木・T・虎徹で、それがワイルドタイガーだと人は言う。
まるで三人の人格が自分の中にいる錯覚を起こす。
ある人は、自分を虎徹だと言って語る。
ある人は、自分をヒーローだと言って語る。
ある人は、自分を今の自分だと言って語る。
絡まった糸を絡めた本人と、きちんと話がしたくなった。
無意識に唇に触れた。
すべてが始まったあの日、半ば無理矢理に塞がれた唇に。
部屋に戻りシャワーを浴びて、一日の疲労が気持ちよく身体をすり抜けていく感覚に肩の力を抜いていた。
ソファに身体を沈め、何も考えない時間さえ今は大切に思える。
少し前までは信じられなかったことだ。
メガネをテーブルに置き深く息をした。
記憶が戻らないとなった虎徹に、バーナビーをはじめ、ヒーローたちで様々な記憶を与えていった。仕事の事、プライベートのこと。各々が共有した時間を、ゆっくりと語り聞かせていった。
ブルーローズに至っては、どう言うべきか言葉を選びながら、時折慌てふためいていた。自分の恋心に気づいてほしい、気づかれたくない。そんな感情があふれていた。
では自分は。
ただの相棒としての記憶を、少しのトゲを含めて語り聞かせた。
それ以上は言ってはいけないと抑止した。
はじめ、動転してキスをした。あのときの事をどう説明するか迷ったが、特に疑問を口にされなかったからなにも言わなかった。
彼が話題に出さないし、なによりその後の展開が急激だった。自分だってそのことを半ば忘れかけていたのだ。
目を閉じてため息をついた。息の音が聞こえるほど大きく、深く。
その時、インターホンが鳴り響く。
「虎徹さん?」
何となくそんな気がして名前を呟いて立ち上がった。
実際、ドアの前にいたのは、帽子を被りつま先を見つめ、ぐらぐらと身体を揺らす虎徹の姿だった。
「どうしたんですか」
モニター越しに話すのが煩わしく感じ、ドアを開けながらバーナビーは声をかけた。
突然のことに驚き、わっと後ろに退いた虎徹は口ごもりから笑いを浮かべた。
「入っていいか?」
「え、あ、まぁ」
何だろうと思いながら、バーナビーは部屋の中に虎徹を招き入れた。
よく考えてみると彼が記憶を失ってから、この部屋に来るのはこれが初めてだ。
ドアを開けながら、ふと気づいた。虎徹は何故この部屋の場所を分かったのだろうか、と。
「虎徹さん」
「ん?」
「あの、何でここが、僕の家だと?」
「あー……いや、なんか、わかんねぇけど……わかった、から?」
苦笑いを浮かべる姿に、彼もこの現状が理解できていないのだと分かった。だからバーナビーは特にそれ以上は追求せずに、ソファへと座るように言って鍵を閉めた。
「で、どうしたんですか、突然」
「あのさ、バーナビー。色々、お前が知ってる限りでいい。ヒーローじゃない俺を教えてくれ」
「はい?」
「お前は、俺の相棒なんだ。ヒーローじゃない俺のこともたくさん知ってるだろ。まだお前が話してないことだって、いっぱいあるんだろ? な? 俺の家族のこととか……お前の……こととか」
そう言って虎徹はバーナビーの翡翠色の瞳をじっと見つめた。
その強いまなざしに、バーナビーが耐えきれなくなって目線を逸らす。
「お前はまだ隠してるんだろ? 何か、わかんねぇけど、それは分かるんだ。なんか、その……重要な事を」
一瞬の期待。
だが、それが無いということを自分に言い聞かせながら、バーナビーは迷うことなく笑った。
「あなたは、そうですね。僕の相棒です。最初は本当お節介で、たまらなくイラつく人でしたよ。ええ。ただ、それだけでした。ですがいつからか、あなたは僕の支えになってました。いろんな意味で。相棒として、時には仕事という垣根を越えて、友人とも親友とも言えない。なんと、言えばいいんでしょうかね」
「恋人として?」
突然の、予期せぬ一言にバーナビーは言葉を失い瞬きをした。長いまつげが揺れ、その奥の瞳も一瞬動揺を見せた。
笑みが消える。
「まさか」
そんなはずはない、という意味合いを込めて無理に笑うが、虎徹は至ってまじめにバーナビーを見つめていた。
「お前は、あの日俺にキスをした」
「あ、ああ……あれは」
「いつも何かを言いたげに、俺の隣にいた。だいたいおかしいだろ。ただの相棒だとしても、ただの先輩後輩仲だとして、お前が何でそんなに俺の記憶なんかに必死になる必要があんだよ」
「仕事に支障があるからに、決まってるじゃないですか」
「そういう顔は、してなかった」
あれほど自分の想いに気づかずにいた男が、こうして隠そうとしている過去に敏感に反応している。その事実に笑いが漏れた。
「あなたの、見間違いですよ。僕はただの……相棒です」
「おい、バーナビー」
「あなたが知りたいこと。そう、ご家族の事で話できる限りはしますよ。僕も全部を知っているわけじゃない。でもあなたがいつも話聞かせてくれた事をそのまま、一言一句間違わずに伝えることはできる。だから、何でも話しますよ」
だからこれ以上は踏み込まないでほしい。
そんな気持ちを胸に、バーナビーは顔を逸らし、何か飲むものをと言ってキッチンへ向かった。
「おい、バーナビー!」
「今は」
背を向けたまま、バーナビーは続ける。
「今は、あなたはヒーローとして記憶を大切にしてください。僕たちは相棒なんです。その事さえ覚えていてくれたら十分なんです」
「だけどッ!」
「それ以上は、これから先何年もたって、あなたが後悔しないと思えるなら……また同じように進めばいいと、僕は思うんです」
振り向き笑みを浮かべた。
引っかかっていた疑問に、無言で答えたのだと、虎徹は直感で分かった。
だが否定とも肯定ともいえない。
曖昧な答え。
その優しい眼差しに、虎徹はそれ以上の言葉を失った。
「こうなったのも、犯人は僕を苦しめる為だと言ったんです。でも、僕はもう苦しまないと決めましたから。だから、僕は待ちますよ。あなたがヒーローとしての記憶を再び持って、家族との思い出を大切にしながら。そこに僕がいることを許してくれる事を」
それ以上は何も言わずに、バーナビーはキッチンへと姿を消した。
その後ろ姿を見つめたまま、虎徹は何とも言えないため息を吐き出した。
「わっかんねぇな……色々」
朝、眠りを妨げたのは目覚ましではなくPDAのけたたましい音だった。眠い目を擦りながら、バーナビーと虎徹はそれに応答する。
まだいまいち頭が回っていないし、なにより勝手が分からない虎徹は、適当に相づちを打ちながらアニエスの声を聞いていた。
「タイガーは寝てるの? しゃきっとしなさい」
そう言って切れた通信に、虎徹はため息を。バーナビーは苦笑いを浮かべた。
「直接現場に向かいます。僕の車があるのでそれで。そこで斎藤さんが持ってくるトランスポートに合流して、ヒーロースーツに着替えて出動です。流れはわかりますか?」
「何となく」
「じゃあ、行きましょう」
「このままか?」
寝起きなのだ。頭も爆発しているし、脱ぎ落としたシャツが皺だらけになっている。
バーナビーは一度眼鏡を外し顔を拭った。
「僕もあまり気が進みません。が、とりあえず仕事を終わらせればシャワーは浴びる時間があります。顔だけでも洗って行きましょう」
その言葉に同意して、虎徹は動き始めた。
「みなさん、お待たせしました! 今日はついに、あのワイルドタイガーが帰ってきました!」
視聴者を盛り上げるように、実況のマリオの声がシュテルンビルドにこだました。
アニエスからの指示を聞きながら、虎徹はサイドカーに乗り、じっと空を見上げていた。
「どうしたんですか」
「いや、何か……不思議でな」
「不思議?」
「昨日まで俺はこれを見てただけなんだぜ? 今はそこにいる」
的を得ない言葉だったが、バーナビーは笑った。
「そうですね。でもこれがあなたが本来いるべき場所ですよ」
「あっそ」
素っ気ない返事をして、ワイルドタイガーと姿を変えた虎徹は目を閉じた。
「来ます」
「犯人はヒーローたちを牽制しながら逃亡中。おお! 早速犯人の前に、タイガー&バーナビーの登場だ! ほかのヒーローたちも追いかける!」
二人の姿を見るや否や、犯人の男は体に青い光をまとった。
「ネクストか!」
瞬間、男の姿が消えた。
「え?」
「何だ何だ? どうなってんだ、バーナビー」
二人が目の前の出来事に驚いている間、男の姿が虎徹の目の前に現れた。
咄嗟に力を発動させ、虎徹は繰り出された攻撃を受け止めた。
そのまま男の体を掴んだ虎徹をみて、バーナビーも能力を発動させて男へと攻撃を繰り出した。
しかし、当たる寸前で男の姿が消える。
「だっ!」
「チッ」
攻撃が当たるかと思われたが、直ぐにバーナビーは体の力を抜いた。とっさに下がった虎徹も、攻撃を避けることができた。
男は一メートルほど離れた二人の後ろにいた。
「瞬間移動……というのが適切かわかりませんが、近い能力みたいですね」
言ってバーナビーは構えた。
男は短距離内での瞬間移動が出来るらしい。ならば、逃げないようにして気を失わさなければならばい、厄介な敵だ。
時間が刻一刻と減っている。
うまくあの男を取り押さえるには、寸分狂いのない連携が必要となる。
「よし」
小さく呟いた虎徹が一気にかけだした。
「ちょっと、虎徹さん?!」
なにをやっているんだ。と叫びたい衝動より先に、虎徹のとった行動に続く言葉がでなかった。
男に殴りかかる。しかし、男は一瞬姿を消し避ける。
そして現れる。虎徹の後ろに。
「いまだ!」
男と虎徹の距離はない。
男とバーナビーの距離はおおよそ一メートル。
そして、すでにほかのヒーローたちが駆けつけてきている。
逃げ場は完全に狭まっている。
バーナビーは足を踏み出した。勢いをつけ、男の脇を蹴りあげる。
宙に軽く浮き、地面を転がっていく男は苦しげに声をあげた。
懐に持っていた銃を取り出し、受け身をとり体を起こした。まるで戦い慣れている手つきで、男は銃口をバーナビーに向けた。
「っ!」
「バニー!」
叫び声とともに、虎徹が走り出しバーナビーの体を掴み地面に転がった。
銃弾が肩をかすめたが、パワードスーツにかすれただけで怪我はなかった。
「だっ! なんなんだ、アイツ」
「ちょ、ちょっと虎徹さん」
「あ?」
「今、僕のこと、バニーって」
「あー……何かその頭見てっとさぁ、兎みたいだなーって思ってさぁ」
へらっと笑った虎徹に、バーナビーは今が犯人と対峙している場面でなければ抱きつきたい衝動のかられた。
「あなたって人は……今がどういう状況かわかってるんですか」
「あったりまえだろ」
わざとらしくため息をついて、バーナビーはほかのヒーローたちが応戦している犯人をみた。
武器が銃であるだけならまだしも、彼の能力はなかなかに厄介である。どのヒーローも四苦八苦していた。ここは全員で一斉に包囲していくしかない。
「なら、あと残り二分でケリを付けます」
「おう」
「オジサンの再デビュー戦みたいなものですからね。少しぐらい良いところつくってあげますよ」
「はぁ? つかお前、今オジサンつったな!」
「ええ。時代遅れの、古くさいオジサンですよ。でも……」
「あ?」
「それでこそ、僕のバディですから」
虎徹が隣におらず、一人で出動するのに慣れていた。それでも、やはりこうして二人でいるとそれだけで身が軽く感じた。
だから今回の犯人も、必ず捕まえることができると自信があった。
ほかのヒーローに負けていられない。
「行きますよ、オジサン」
「はいよ、バニーちゃん」
いつか交わした言葉を発しながら、二人は地面を蹴った。
END