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クーラーを効かせた部屋でビールを飲みながら家に転がっていた団扇で自身にだけ風を送る。
天井を見上げて喉を晒して、「あー」などと意味を成さない言葉を吐きながら過ごす平和な午後。
部屋の本来の家主であるバーナビーはその姿を横目で見て、小さくため息を吐いた。
「人の家に来るなり凄いリラックスしてますね」
「だって涼しいんだもんよぉ。お前も暑いの苦手?」
「まぁ」
涼しい空気が部屋に充満している。だがバーナビーも、部屋に押し入った虎徹も上はタンクトップという軽装だった。虎徹にいたっては部屋に着くなり手にしていたビニール袋から飲み物をテーブルに広げてバーナビーを呆れさせた。袋の底にはアイスまで律儀に準備されており、今は冷蔵庫に我が物顔で鎮座している。
「だからって、来て早々に脱ぎ散らかすのはやめて下さい」
ちらりと目線をやると、そこには脱ぎ散らかされた上着とズボン。
虎徹に手渡された、キンキンに冷えた缶ビールを昼間から煽りながら、内心沸々と湧き上がる欲求を抑えていた。
「暑いからいいじゃねーか」
「貴方が来てから設定温度3度も下げたんですけど」
「え、ホント?」
「下げろっていったのはどこの誰ですか」
「だって外は暑かったんだよ」
人懐っこい笑みを浮かべて虎徹は焼けた四肢を伸ばしてだらけた。
元々色が濃い肌をしているが、ここ最近の日光によってさらに色を濃くしていた。直接肌が晒されない場所は本来の色を残しており、夏のグラデーションを描いていた。
「まぁたしかに、これだけコンクリートばかりだと反射だけでカナリ暑いですからね」
「此処に来るまでが地獄だった」
「で、何で来たんですか」
テーブルに肘をついてバーナビーは目線だけ向けて言った。投げやりに答えが返ってくるとは思っていない。
虎徹は唇を小さく尖らせ言葉を探している。
その様が歳の割に幼く見え、さらに意地の悪い質問を投げてやりたくなる。
「涼みに」
「自分の家で涼めば良いじゃないですか」
「クーラー古いから効かねぇんだよ」
困ったような表情で言う虎徹の頬は、よくよくみると赤味がさしていた。日に焼けたからだろう。
そう理解しながらも、バーナビーは仏頂面で眺めながら違う方向に思考を巡らせていた。
「なんだよ」
「いえ別に」
頬を赤らめ、最初は嫌だと拒絶する言葉を紡ぐ口が、徐々に甘く吐息を漏らしていく。そして強請るように名前を呼び腕が首に絡みつく。年下の男に抱かれるという羞恥に耐える表情は嗜虐心を煽る。
「ねぇ先輩」
「ん?」
「最近クーラーにばっかり入ってますよね」
「暑いからなぁ。ソレが?」
中身をすべて飲んだ缶をテーブルに置いて、縁を指先でゆらゆらと揺らしながらバーナビーは笑った。
「トレーニングはロクにしないし」
「してるだろ」
「汗かいてないじゃないですか、いつも」
「うるせぇ」
「クーラー病になりますよ、汗かかないと。どうせシャワーだけで、湯船に浸かりもしないんでしょう、暑いと」
「お前、何。実は思考が読めるとか? 怖いんだけど」
すべて肯定の意味と取れる返しをしながら、なおも虎徹は内輪で仰いでいた。
そよそよと柔らかい風が頬を頬を掠め、髪を、服を小さく揺らした。
立ち上がり、虎徹の近くまで歩いて行く。
座ったままの虎徹はバーナビーを見上げる形になり、首をかしげた。
窓を背にバーナビーが立っているので影ができ、それはそれで涼しい。
ただし、若干嫌な汗が背中をつたった。
「ばにぃ?」
見下ろす目が意味深に笑っていて、更に身の危険を感じる。
逃げたいが逃げたところでどうにもならない。
これだけで汗はかいていると叫びたくなりながら、虎徹は小さく座ったまま後ずさった。
衣擦れの音が小さくたつと、ひたり、と足音が一歩。
「どうしたんですか?」
「いや、あのな……」
「うちに来るならまだしも、そんな格好するほうが悪いんですよ」
「あ、暑いからしかたねぇだろ。大体何でお前、オッサンのだらけた姿見てそうなるんだよ」
「そうなるとは?」
「だ……」
墓穴ほった。
目線を素早く反らして虎徹は乾いた笑いを発した。
バーナビーはしゃがんで虎徹の顔を掴むと唇を塞いだ。頬に触れた手が少し暑いのは、肌が日に焼けている証拠だ。
舌をねじ込み、遠慮がちに開かれた口内をゆっくりと侵していく。舌先が上顎を掠めると、ぴくりと身体を震わせた。
床についた手の指先に力が込められる。汗ばんだ指先が床を滑り、キュっと音を立てた。
「ん……ふ」
口付け一つで懐柔されるのも癪に障るが、実際問題そうなので仕方がない。
唇を離して首筋へと唇を落とした。軽く何度も唇で触れ、舌で舐めると口内に汗のしょっぱい味が広がる。
「ぅあ」
不意に漏れた声に虎徹は唇を噛み締めた。何度も執拗に舐められると、身体の感度は更にましていく。
声を押し殺し、薄く開いた唇から吐息だけを漏らしながらバーナビーの肩に手を伸ばした。その様子に気づきバーナビーは顔を上げ、髪を掻き上げて満足気に笑った。
「今日はやけに素直ですね」
「酒で気分が良いだけだ」
「じゃあ、わがまま聞いてもらえますか?」
「は?」
キッチンから戻ってきたバーナビーはアイスの袋を開けながら近づいてきた。
訳のわからないまま放置された虎徹は、その姿を見るなり流石にコレは逃げようと腰を上げた。だが逃げようにも逃げ道はない。ならば抵抗ぐらいはと思うが、それがバーナビーの思うツボとは気づいていない。
「まて、早まるな!」
「何をですか」
袋から取り出したアイスを咥えてバーナビーは首をかしげた。
「へ?」
「まさか、良からぬことでも考えてましたか」
「いや、いやいやいや」
「何考えてたんですか?」
口からアイスを離し虎徹に先端を向けた。
バーナビーは唇を舐めて、口内の冷温とサイダーのさっぱりとした味を楽しみながら笑った。
「食べます?」
ほら、と差し出され、何を考えているのかイマイチ把握しきれないまま、虎徹は口を開けてアイスを頬張った。
口内の熱をすべて奪いとっていき、代わりにサイダーの味が広がっていく。
何も考えず、そのアイスを舌で舐めとり、そして口を離した。一旦自分の唇を舐めてから先端をかじり取る。
「ほんと、何でも噛むんですね」
「ん?」
ひとくちサイズにかじりとったアイスを口内で転がしながら首を傾げた。シャクシャクと音を立てて咀嚼していく。
バーナビーは手にしていたアイスを自分の口に放り込むと、虎徹の肩を軽く押した。
突然の行動にされるがまま重心を後ろに傾けさせられ、乗りあげてきたバーナビーにそのまま押し倒される。身の危険を感じた時にはすでに遅い。それは今まで何度も経験しているはずなのに上がらえ無いのは、こちらも惚れた弱みなのか。単に危機管理能力が弱いのか。それもヒーローとしてどうなんだと悶々と考えながら、ひとまずはこの現状打破を試みる事にした。
「ちょ、待て待て待て。何やってんだ」
「何って、だからわがまま聞いてもらおうかと、先輩に」
「バニー、お前都合よく先輩呼び使うな馬鹿か!」
「だって名前で呼ぶより先輩って呼んだほうが言う事聞いてくれるじゃないですか、ねぇ、先輩」
一度口から離したアイスをもう一度口に入れ、そのまま虎徹のズボンへと手を掛けた。
「っの、馬鹿、やめろ。早まるな」
「早まるなって、なにふぁれすか」
手際よくズボンを脱がし、膝を掴んで大きく広げさせた。閉じないように自分の身体を間に入れてバーナビーは笑みを浮かべた。
「お前、性格ほんっと悪いのな」
「何言ってるんですか。そうさせてるのは貴方ですよ」
溶けかかっているアイスをひと舐めした。
「ああ、それとも虎徹さんと呼ぶほうが良いですか? 未だに慣れませんよね、虎徹さん」
「っさい、黙れ!」
先端の、虎徹に先ほどかじり取られた部分を舐めて口に含んだ。一口分、バーナビーもそれを噛み砕くと、それを口に含んだまま虎徹の胸元へと唇を落とした。
「ちょっ!」
ツンとした痛みに似た冷気が一点に集中する。
バーナビーは口に含んでいたアイスを浅黒い肌に落とした。それでもすぐに体温でジワリと溶けていく。舌先でアイスを滑らせていくとその度に声を押し殺し、身体を震わせた。
胸元の突起へと舌が届くと、既に固形を保てなくなったアイスがどろりと床に向かって垂れた。それを舐め取り、今まで描いた薄青い線を丁寧に舐めていく。
「っ……ぁ」
声、というより、熱く艶を含んだ吐息を漏らしながらその様子を見ていたが、羞恥に耐え切れずに天井を見上げ腕で目元を覆った。
わざとバーナビーは音を立てて甘い汁を啜る。わざと歯を立てて肌に小さい赤い痕を刻む。
手にしていたアイスが溶けて指を濡らした。
「クーラー入れてても溶けるの早いですね」
「あ?」
言いながらバーナビーは手首まで垂れたアイスを舐め上げた。ちょうどその時腕を退いて眼を開いた虎徹は、赤く熱い舌をのぞかせるバーナビーと眼が合った。
流し目の、いつもの冷静さを少し欠いた危険な熱を孕んだ瞳を直視できずに眼をそらした。
「食べます? アイス」
この期に及んで何を言う。と思いながら、遠慮するよう手で払う仕草を見せた。
「でもせっかく買ってきたんですから。少しは楽しんだほうが良いですよ」
「楽しむ?」
嫌な響きだ。
「ええ」
バーナビーの指が雄に触れた。まだ柔さを残している雄を片手で包み込んだ。その緩やかな刺激に、ぴくりと脈打ち硬さを増す。
手にしていたアイスを一口かじり、しゃくしゃくと音を立てて咀嚼し飲み込む。もちろん、その間も手を動かしながら。
「っ……何、考えてんだ、お前」
「何がですか?」
ジャリッと音を立てて噛み砕いたアイスを口の中で更に細かく砕きながら、手の中の雄へと口づけた。
「待て待っ……あ」
途端、ひやりとした口内に包まれ身を竦めた。冷たすぎてか、ソレが本当に冷たいのか、熱いのか分からない痛みに似た感覚に襲われた。
すぐに溶けたアイスが口内を浸す。それを嚥下て喉を鳴らした。
「つぅ……!」
声を必死に抑えながら虎徹は更に吸い上げるバーナビーを恨めしく思い、足を軽く動かした。抵抗とも言えぬ抵抗だが、何もしないよりマシだ。
しかしバーナビーは、残り三口程度のアイスを手にしていたほうの手でその足を押さえた。
棒に辛うじて残っていたアイスをそのまま腿の内側に押さえつけるように。
「つっめてぇんだよ、馬鹿!」
「暑いんですよね。だったら良いじゃないですか」
「そういう問題じゃねぇだろ、っ!」
雄を握っていた手に力を込め、しっとりと溢れでてきている先走りを親指の腹で拭い取った。足を掴んでいる手もそのまま滑らせる。冷たいアイスが溶けながら腿を這い、液体になり床に落ちていく。
「あーもったいない」
「は?」
垂れていくアイスを拭う様に指先をしならせた。その指をまだ固く閉じている孔へと押し当てた。ひやりとした指が抉じ開ける。
それと共に、潤滑油の代わりとは言い難いが、既に形をとどめていないアイスを孔にあてがった。
「ひっ」
「流石にコレだと慣らせませんかね」
「その、前に腹壊す! 馬鹿かおまっ」
「そうなったらちゃんと世話してあげるんでお気になさらず」
「いや待て、おい!」
止めようと手を伸ばし身体を起こしたところで、雄を弄っていた手が離れた。足を軽く持ち上げ、孔の辺りでくすぶっていた指を最奥へ。そして身を屈め唇を塞ぐ。
「んんん!」
肩を掴んで引き剥がそうとするが、中でゆっくりと、的確にそこを慣らそうとする指に翻弄され身体の力は抜けていく。アイスの冷気もすぐに溶かされ、今はその余韻が少しあるぐらいだった。
指を引きぬき、更に溢れでてきている先走りを拭うと再び孔へと押し進めた。
その間舌を絡め深く口付けを交わす。
押し返そうとした腕をバーナビーは掴んで自分の首へと伸ばさせた。それに従い、息苦しさの中虎徹はもう片方の腕も伸ばした。
「嫌だっていう割に、いつも最後そうなりますよね」
「るせぇ。眼鏡たたき割ってやろうか」
頬を紅く染めながらそう言って眼鏡に触れようとしたが、それより早くバーナビーは自ら眼鏡を外した。
伸ばされた手を掴み、手のひらに唇を寄せた。尖らせた舌先でなぞると、中途半端に熱に浮かされた身体は過敏に反応する。
孔を広げるよう動いていた指もいつの間にか二本へと増やされ、更に動きを激しくさせていた。
既にアイスの冷気など蒸発して二人の熱しか残っていない。
「いれて良いです?」
「聞くな」
「じゃあいれなくていいんですね」
「ちが、あッ……」
指の付け根を舐められ、びくりと身体を震わせた。思わず漏れた声に舌打ちしながら、虎徹は息を呑んで深く息を吐いた。
「いつも思うんですけど」
「ん?」
「もっと声、聞かせてくださいよ」
言いながら、バーナビーは身体を起こし自分のベルトへ手を掛けた。
「いい声なのにもったいない」
「お前、暑さで絶対頭やられてんだろ」
「まさか」
額にうっすらとかいた汗に髪が貼りつき、強すぎる快感に顔を歪める虎徹の姿を見下ろしてバーナビーは口角を上げた。
何度も見たとは言え、必死に快感に抗う姿は扇情的だ。
「ずっと思ってること、ですから」
言いながらゆっくりと、虎徹の中へと自らの熱を押し進めて行った。
「うあ……っあ」
「だからッ」
キツク閉じようとした唇に親指を滑りこませ、バーナビーは首筋や胸元にキスを落とした。
中から伝わる猛った熱に、虎徹は思わず指を噛みそうになる。寸前に口を閉じるのを止めると、バーナビーは満足気に笑みを浮かべた。
少し動くだけで唇の端からは吐息が、小さな声と共に漏れてくる。
「あ……っく」
少し動かすと苦しげな声が漏れる。痛みからではなく、既にそれを快感として得ているのが声に含まれる甘さと、耐える表情ですぐに分かる。
「もっと、聞かせてください。虎徹さん」
「……っ、あ、はっ……くっそ、それ……やめッ」」
耳朶を噛みながら囁くと熱を咥えこんだ孔が更にキツク絞めつけた。
「でも、虎徹さんって呼んだほうが感度イイですよね」
「う……ッあ、はッ、バーナビーっ……ぅ」
腕を背に回し抱きつくと、虎徹は更に奥へとバーナビーを受け入れられるように身体の力を抜いた。その隙をついて更に奥へと貫く。
何度も何度も唇を合わせ、舌を絡め、バーナビーからも余裕が消えていく。
虎徹自身も余裕は殆ど消えていた。
それでも、いつもスカした顔をしているバーナビーが余裕を欠き、自分を求めるのに必死な姿を見るのは好きだった。
揺さぶられ、クーラーが効いているというのに汗を流しながら、身体中の熱がざわめくのを感じた。
「あ、ばッ……ナビー……くっ」
爪を立てないよう指先の腹に力を込めた。
更に激しく突き上げられた。低く、それでいて甘い声を抑えながら互いの腹に白濁をほとばしらせた。
「はっ……虎徹、さん」
余韻に身体を預けていると名を呼ばれビクリと身体を震わせた。
奥にへと来るバーナビーの熱を全て受け入れながら、虎徹は余裕のないバーナビーに口づけた。
「俺のアイス」
風呂上りの身体をぐったりと床に転がせたまま、虎徹は恨めし気に呟いた。
「食べたじゃないですか」
「二口ぐらいだろ?! あんなの食べた内に入るか!」
「上で二口、下で三分の一」
「お前何時からそう云う奴になった。あ、昔からか。すまん」
虎徹は生乾きの髪にタオルを巻いた。
キッチンへと消えたバーナビーはすぐに戻ってきて、タオルで頭を乾かそうとしていた虎徹の前に一つの袋を差し出した。
「ちゃんとありますよ、貴方のアイス」
「あれ?」
「さっきのは確かに今日買ってきたアイスですよ」
「じゃあコレは?」
差し出されたアイスを手にとり、開けながら虎徹は立ったままのバーナビーを見上げた。
その手には同じく、すでに封を切られたアイスが握られていた。
「僕が買っておいたんですよ」
そう言って得意げに笑って、バーナビーはアイスをひとかじりした。
fine...