「ちっ」
明らかに形勢が不利なこの状況下に、十四郎は至って冷静に辺りを見回しながら舌打ちをした。
冷静さは欠かさないものの、怒りは沸騰している。
刀を構える前に、また一人斬りかかってきた。
避ける。そして足払いし身を翻し背を斬りつけた。そしてまた一人男が死ぬ。
それと入れ替わりに違う男がまた走ってきた。同じように身を翻し、踊るかのような身のこなしで斬り刻んでいく。身体のアチラコチラに走る痛みが、加虐思考に走ろうとする頭を覚醒させる。
思わず、笑っていた。
痛みで痛みをキリキザメ
「うわぁあ!」
「てめぇで最後だ」
肩で息をしながら、最終勧告を下し、地に座り込んだ男の首を跳ねた。
ゆっくりと後ろへ倒れていく身体を見つめ、十四郎は口の端に付いた返り血を舐めとった。
それ以前の問題として、口の中も血の味がして気持ちが悪かった。こちらは自分の血だ。無傷で終えたかったが、途中で後頭部から思い切り殴られた際に噛んだのだろう。
結局赤い唾を吐き出した。
「あらあら、何やってんのこれまた派手に」
のんきに、くすりと笑った声がしたので振り返ると、ソコには今一番見たくない男が立っていた。
銀髪に白い着物。昔は白夜叉と呼ばれていたらしい男は、未だに白い着物を身にまとい仲間を守るために戦う。
赤い目は見ていると射竦められそうなほど赤く、世界を若干冷めた目で見ていると思う。
「てめぇこそ、何でここに居る」
「買い物途中に何か派手な音がしたから覗いてみただけ」
ひらひらと手を振って言った。
そういう男だ、この男は。
「で、何それ」
後ろを指差し口元を歪め、愉しげに笑った。
「ちっ。てめぇには関係無いだろ、万事屋」
万事屋と呼ばれた男ーー銀時は首を傾げて再び笑った。
「やり過ぎじゃない? もっと加減覚えた方がいいんじゃない? 一応公務員様なんだし」
「うるさい」
「ソレにやり過ぎってより、度が過ぎてるっていうのかなぁ」
「五月蝿い」
「私情を挟んだ殺し方って見えるんだけど?」
「うるせえって言ってんだろ!」
刃を向けた。
すでに血に塗れた刀は早く手入れをしてやらなくては錆びついてしまう。そんなことを思いながら、それでもこの男をこのまま帰すのだけは許せなかった。
だからといって斬ることは出来ない。
「おーこわ」
両手を胸のあたりに挙げ、冗談交じりに笑った銀時は挑発的な笑を浮かべた。
赤い目が細められ、次の瞬間間合いに入ってこられた。
「くっ!」
反応が半歩遅かったが、致命的なそれではない。
木刀を抜き、柄の部分で腹を狙ってきたのを避け後ろへと退いた。
続いて構えた銀時が、そのまま剣先を伸ばし突いてこようとしたが、それも身を翻し避けると刀で木刀をなぎ払った。
だが折れることのない木刀は力強く十四郎の刀を受け止めた。
「何かっかしてんの?」
「五月蝿い」
「何か嫌なことでもあった?」
「五月蝿い」
「ねぇ、土方くん」
「てめぇ、性格悪すぎだ」
「っていうか、あんた見てると苛めたくなんのよ」
ね、と笑った銀時は刀を払い、腹へ膝をめり込ませた。
「うっ!」
避けることが出来ず、全身でそれを受け止めてしまった十四郎は痛みに耐えながらも刀を離さなかった。
だが身体は地面へと落ちていく。銀時の木刀が肩を叩き更に。
地面へと座り込んだ十四郎は、すぐに立ち上がろうとしたが目の前に銀時が立ちはだかり、ソレはかなわなかった。
「ったく、こちとら仕事をしたあとなんだから、絡んでくるんじゃねーよ暇人」
「仕事、ねぇ」
あられもない惨状を見回し、鼻で笑い銀時は十四郎の手を蹴り飛ばした。
「いっ!」
「なんていうかさ」
刀を離した。
慌てて握ろうとしたものの、その間に銀時の足が手の甲を踏みつけ、なじり、叶わなかった。
刀を拾い上げて、次の瞬間振り下ろした。
「イライラすんだよね、あんた見てると」
剣先が十四郎の手の甲を貫いていた。
一瞬のことだった。
気付かなかったわけではないが、気づくのが一瞬遅かった。
痛みに声を上げるより、気を保つのに必死だった。
「ねぇ、十四郎くん」
「て、めぇ……っ」
「泣かないよねぇ、ホント。何やっても自分はそんなのダメージにならないって顔してる」
「何が、い、いてぇ」
「別に何も。だから言ったじゃん。ただ苛めたくなるだけなんだって」
そう言って笑った銀時は刀から手を離した。
しかし刀は地面に刺さったまま、十四郎の手を貫いたままだった。
「大丈夫、大事な筋とかは切ってないはずだから、それ」
「そりゃどうも」
「じゃ、オレ買い物の途中だったから」
ひらひらと手を振り、銀時は身を起こした。
地面に跪く十四郎を見下ろし、愉しげに笑い踵を返した。
その笑みを十四郎は見なかった。見なくても想像は出来た。つい数日前に見たあの残虐な笑みに違いない。
額から流れる冷たい汗に、気を必死に保ちながら、刀の柄へともう片方の手を伸ばした。
下手に動かすと痛みが酷くなる。それこそ、切ってはいけない筋なりを切る可能性がある。
浅い息を繰り返しながら、刀の刃を掴んだ。少しぐらい切れるぐらいなら構わない。
勢い良く刀を引きぬき、自由になった手からは鮮血が吹き出した。
「ぐぁっ……ぅ」
心音と流血に思考を蝕まれそうになりながら、必死に携帯電話を上着の中からたぐり寄せた。
そして発信履歴の一番上の番号をすかさず選択した。
相手はすぐに電話に出て、開口一番に「副長!」と悲痛な叫びを耳元へ届けた。
「てめぇも、うるせェんだよ」
「何言ってんです! 副長、今どこですか!」
「例の、場所だ。奴らは片付けたんだが、邪魔が入ってな」
「邪魔? なんですか」
「それはどうでもいい。私情だ。とり、あえず……迎えに来、い」
「副長?」
「わかったな」
「副長、大丈夫ですか?!」
「山崎!」
「はいぃ?!」
「返事、しろ。わかった」
「……はい」
「3分以内にこねーとぶっ殺す」
そう言って電話を切ると地面に叩きつけ、そのまま寝転んだ。
「最悪だ」
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なんか土方受けに盛り上がったテンションで書きなぐったものです。
銀魂は基本的に坂銀が好きなのですが、土銀土も最近いけるわ。と気づき。
ていうか寧ろ土方受けいけるわ、と、基本リバ苦手なハズが不思議な状態。
そんな本当の書きなぐりってやつです、これ。