いつも飄々として、地面に足がついていないように見える男は、空を見上げている。
何故見上げるのかと問いかけたところで、返事はいつも返ってこなかった。
「旦那ぁ」
「ん?」
「何でいつも」
空を見上げるのかともう一度問いかけたら、銀時は小さく、初めて答えた。
六〇日
「旦那に友人なんていたんですかぃ」
「いるよぉ。一人や二人ぐらい」
「言ってて虚しくないですかぃ?」
たまたま立ち寄った団子屋に先客としていた銀時の隣に座り、同じように茶と団子を注文した総悟は同じく空を見上げて話しをしていた。
そして、ずっと聞きたかった答えを聞けたのだが、詳しくは分からなくて何も進まなかった。
「馬鹿な野郎だから、落ちてきたら拾って投げ返さねぇといけねぇんだよ」
そういう約束なんだ、と小さく呟いた銀時は、団子を頬張った。
「そらぁ見とかないと駄目でさぁな」
「だろ」
続いて運ばれてきた総悟の注文した団子に手を伸ばし、頬張った。
「旦那、それ俺の」
「まぁいいじゃないの。で、今日は何」
「今日は、別に仕事じゃないでさぁ。たまたま休憩になったでね」
探して歩いていたら見つけたとは言えなかった。
仕事をしながら、いつもどこかで出会うこの男を探しながら歩いてたとは言えなかった。
「あっそ」
茶で喉を潤して総悟も空を見上げた。
銀時の過去はよく知らない。語らないし、知ろうともしないのだから、知らなくてもおかしくはない。
この空の何処か、宇宙のどこかに居るというその友人が一体何者で、そして何故コレほど遠くを見る程銀時の大部分を占めているのかも分からない。
「どっか」
「ん?」
「どっか行きたいっていったら、連れてってくれるんですかぃ?」
ただ、無性に空を見上げる時の銀時は何処か儚く、そして腹立たしい気分にさせられた。
別に行きたい場所があるわけでもないし、取り敢えずサボれればいいという理由から選ばれたのが万事屋だった。誰も居ない部屋は静まりかえっていた。
「で、沖田くんはお仕事は?」
「あるけど、無いですぜぃ」
「税金泥棒が」
「平和なことはいいことですぜぃ、旦那」
途中のコンビニで買いだめしてきたいちご牛乳を手に、冷蔵庫へと向かうとその中へパックを突っ込んでいった。
その様子を眺めながら、総悟はもう一つ聞きたかった事を口にした。
今朝方、屯所で聞いた話しについて。
「旦那ぁ」
「あ?」
あの後、合間をぬって墓参りに行ったという男の話しについて。
「あの後、旦那だけで墓参り行ったんですかぃ?」
銀時は冷蔵庫のドアを閉めて振り返らなかった。
その様子が答えの全てだと分かり、総悟は話しを続けた。
「土方の野郎があの後すぐ行ったらしいんですがね。そしたら、煎餅があったっていうんでさぁ。旦那、行きましたかぃ?」
「ああ、行ったよ」
求めていなかった答えが戻ってきた事に、一瞬の間をとってしまった。
しゃがみこんだまま振り返った銀時は、笑いながらもう一度同じ言葉を繰り返した。
「何で、ですかぃ?」
「あ~……確かに何でだろうねぇ」
立ち上がり、総悟の側へと近づくと頭に手を置きゆっくりと撫でた。
「旦那?」
銀時は頭を撫でる手を止めることなく総悟を見下ろしていた。柱に背を預けていた総悟は、少しだけ顎を上げて、それを上目遣いで見上げていた。
「旦那は、別に墓参りに行くような程の間柄じゃあ、ないでねぇですかい?」
「知ってるか、沖田くん。墓がちゃんとあるっていうことは、幸せだってこと」
「幸せ?」
「そ、幸せ」
「何でですかぃ」
「何でだろうねぇ」
はぐらかす様に呟いて、銀時は総悟の目線に合わせるように腰をかがめた。
その眼が一瞬何かを孕んでいるようで、身を固くした。何をするのだろうと思いながらその様子を目で追っていた総悟が、あっと気づいた頃には、唇に唇が触れていた。
そのまますぐに離れていった事に少しばかり残念に思いながら、突然の予期せぬ出来事に顔を徐々に赤く染め上げていった。
「赤いよ、顔」
にやにやと笑いながら銀時は赤く染まった頬へと手を滑らせると、指先で摘まんで横へ伸ばした。
「痛いですぜぃ、旦那」
「ん?」
「……仕事、思い出したから、帰りやす」
手を振り払い銀時の足を思い切り踏みつけた。
「いでー!!」
大声で痛みを訴えながら飛び退いた銀時に笑みを浮かべ、総悟はスタスタと玄関へと向かっていこうとした。だが銀時が伸ばした手が腕を掴み、それ以上進む事ができなくなった。
振り返るとニヤニヤと笑った銀時が腕を掴んでいた。
もう、先程一瞬だけ見せたあの眼ではない。
肩から力がすっと抜けて行く中、銀時に引き寄せられて体勢を崩した。
「仕事ないからウチに来たんじゃないの?」
「あぁ、いやまぁ、最初はそうだったんすけどねぇ」
「じゃあゆっくりしていけばいいじゃない」
「いや、でも」
「それとも、銀さんと一緒に居るのは嫌ってか?」
「嫌じゃない、ですぜぃ」
言ってしまった瞬間に、大きくうなだれた。銀時の手中にまんまんと収まってしまったのだ。
「じゃあイイじゃねぇか」
思い切り腕を引かれ、抵抗するつもりもなかったのでそのまま引き寄せられ、抱きしめられた。
何故か力強く抱きしめられ、痛いと口にしようとしたが言葉を飲んだ。何となく、抱きしめている腕が震えている様に思ったので何も言えなかった。
「そう、ですねぇ」
総悟は消える程小さく呟いた。
「で、だからってコレは、無いんじゃ、ないんですかぃ、旦那!」
「んでだよ。貴重なタイミングはありがたく享受しておかなきゃならねぇんだよ!」
「言いたいことは分かるけどですねぇ」
いつも銀時がごろ寝をするソファーに押し倒し、隊服に手をかけたところで制止させた。手首を掴み押し返そうとしてもなかなか止めない。
ぐっと親指に力を込め、少し内側にひねりを加えた。これだけでもなかなかの痛みが走る。
「いででで、沖田くん! 痛いから、痛いから!」
「じゃあそこから離れろぉ、変態天然パーマが」
すぐに真顔に戻して銀時は笑った。何かを内に秘めている、総悟自身も良く浮かべる嗜虐的な笑み。
「俺の事好きなんでしょ?」
「っ!」
だから何だと言いたいところなのだが、それは本当の事だし言ったところで続く言葉は容易に想像がつく。ならば口を開かない方が利口かと言えばそうでもない。
だが良い言葉が浮かばず、黙り込んだ総悟を見て銀時は勝手に話を進めた。
「だったら、良いじゃん。
「良くない」
「なんで。初めてだから?」
思い切り腕を伸ばし頬を殴ろうとした。しかし華麗に素早くそれを避けた銀時の髪を掠めるほどで、打撃を与える事は出来なかった。伸ばした腕を再び掴み引き寄せると、これ以上無駄口を叩かせないよう唇を塞いだ。
「っ! だんぅ」
言葉を飲み込まれ、抵抗を押さえ込まれた。
角度を変えながら唇の輪郭を舌でなぞり、舌をねじ込もうとするのに抗った。
「そんな強情に抵抗しなくても良いんじゃないの? 素直になった方が楽だよ?」
「旦那ぁ、アンタ何でそんなに性急なんですかぃ。その辺の思春期の中二男子じゃあるまいし」
顔を真赤に染めた総悟は、銀時の顎を思い切り押し上げて身体を起こした。
「急がなくたって、俺ァいなくなったりしねぇです! アンタは何を見てんですかい、旦那!」
天井を見上げたまま、銀時は小さくうなった。
総悟は突き上げていた腕をゆっくりと下ろし、腕に沿ってゆっくりとソファーへ沈ませた。
「別に、急いでなんてねぇよ」
沈んだ手の平を握り、手の甲に唇を寄せた。手首へと唇を滑らせると、唇の感触がじわりと淡く身体へ広がっていった。
「欲しいもんは欲しい。それの何が悪いってんだ? それに、てめぇはいつ死ぬかどうかも分かんねぇだろうが。だったら、今日できることは今日。明日に延ばさない。分かる? 我慢効かねぇのよ、俺」
不敵な笑みを浮かべた銀時に、一瞬胸を鷲掴みにされたかの様に、甘く射すくめられた。それを悟られぬ様、眉間に皺を寄せて総悟は手を振り払った。
「旦那……何変な心配してんですかぃ。俺は早々死んだりしねぇです」
「そんなこと言ったって、分かんねぇだろ。何てったって、市民の安全を守る真選組なんだからよぉ」
喉で笑い、何処かからかうように言った銀時に腹を立てながらも、言っていることは確かなので言い返す事は出来なかった。
早々やられるつもりはない。そんなに弱いつもりはさらさら無い。だが、いざとなったら自分の命は捨てる覚悟ぐらい出来ている。それは今も昔も変わってはいない。
「旦那こそ、死にたがらねぇでくださいよ」
「は?」
「アンタは、死に急いで見えるんでぇ」
「なに言っちゃってんの」
「この前も」
銀時の服をぎゅっと握った。
この状態、状況を打破したいと言う気持ちもあったが、本当に心の底から拒絶しているわけではない。まだ心の準備が出来ていないだけなのである。
銀時が口にした、初めてと言う言葉は嘘ではない。
総悟自身、銀時が言っている事は理解出来た。もしかしたら、明日死ぬかも知れない命なのである。ならばと思えど、まだ死なないという変な自信もあった。それは言い換えれば、まだ死ねないという意志でもある。
「あれは、さほど危険な状況にはならなかったですけど、旦那は無茶しすぎる事がありますぜ。会えば何処か怪我してたり、傷跡が残ってたり。かと思えば、それは全部消えてやがる。何て野郎だって思いながら、それがもう少し深ければ死んでたんじゃねぇかと思う時もある」
「お前、そんな風に俺見てたの?」
銀時の言葉に言葉を返さなかった。
自分が思うことをただ吐露する。
「アンタは、何でそんなに自分を犠牲に出来るんでぇ。周りの人間がどれだけ心配するか分かってるはずなのに」
いつからか気になる存在となったのは、その傷を負った姿を見る度に心配する自分の心情を理解しようとしていく過程でのことだった。それでも、本当に好きなのだと気づいたのはついこの間。
友達はいるのかと、生前の姉に問われた時に呼びつけた時だったと言っても過言では無かった。
「旦那は死にたいんですかぃ?」
「ああ、そうかもしれねぇな」
いつもは答えをはぐらかすくせに、こういう時だけきちんと返してくる銀時に総悟は舌打ちをした。
「大切なもんを失って、二度とそんなもん作りたくねぇって思ってたのに、見てみりゃそんなもんだらけだ。だったら出来ることは、それを失わないように守るだけだ。自分の命なんてその為ならどうだっていいんだよ。それが間違ってるってことも理解できてる。ただ、俺は早々死なねぇよ。自分の命だってちゃんと守る。じゃねぇと、守ったハズの奴らを結果的には傷つける」
低く呟きながら、総悟の服に手を掛けた。徐々にそれを緩め、肌蹴させながら先を続ける。
それに総悟は抵抗しなかった。
「だから、死にてぇってのは、当たってるし外れてる。って、誰にも言うなよこんなこと!」
慌てて付け足した言葉は笑いを誘った。
緊張の糸が解れるように総悟は小さく笑い、それを徐々に大きくしていった。
自分はこの男のこういうところが好きになったのだろうと、何度も会った中の記憶を辿りながら思った。
「言わねぇですよ、こんな事。旦那の最高の弱み握ったようなもんじゃないですかぃ?」
「そういうこったな」
前を肌蹴させると、黒い隊服とは正反対に白い肌が露になった。
手の平で確かめるように撫でながら、銀時は再び総悟へくちづけた。今度は抵抗せずに総悟もそれを受け入れる。
唇をうっすらと開き最初から自分を誘う様子に、銀時は小さく鼻で笑い舌を滑り込ませた。先程はアレほどかたくなに拒んでいた口づけを受け入れる。
舌を絡め、深く口付けながら胸元に這わせていた指先で胸の突起を軽く押しつぶした。
「んっ……ぅ」
ビクリと身体を震わせ、顎を引き銀時から逃げようとしたがすぐに捕まってしまった。片手で肩を掴み、片手で胸元を弄ぶ。
他人に、そういうふうに触れられる事自体が始めてなのだから、全てが新鮮であり尚且つ刺激的な快感となる。
馴れるとは別、馴れていないからこその反応ばかりが露になる。
唇を舐めて離し、次に唇は首筋へと降りていった。その間も手元は違う刺激を与えてくる。
「だ、んなっ……」
「名前で呼んでごらん? 総悟君」
いつものように死んだ魚のような目をしているくせに、その奥に熱を孕んだ目はまた違って見える。
心臓からぎゅっと締め付けられたかのような淡い痛みが走り、その痛みは熱と変わって下肢へと走る。身じろぎながら首を左右に振った。
舌のざらりとした感触が、首筋をなぞり耳へと到達した。耳朶を甘く噛み、舌を耳へと滑り込ませると粘着質な音が直接聴覚を刺激する。
「あぁ、っ」
離れた唇は肌をなぞりながら胸元へと滑り落ち、そして突起に舌先をゆるくあてがった。
「感じやすいんだな」
「うるさ、ぃ」
押しつぶす様に舌を押さえつけ、突起を弾くように舐める。その愛撫だけで身体は震えた。胸に膨らみもなければ、柔らかさもない。女のそことはまるで違うハズなのに、同じように快感を得られるのだから不思議なものである。
自分の反応に戸惑いながら、総悟は銀時の腕を撫でた。
自分より年上だからこそというのもあるし、自分より場数を踏んでいるからこそ、周りにいる土方や近藤とは違う鍛えられた腕は、様々なモノを抱き抱えているのだろうと思いながら撫でていた。
その様子を見つめて銀時は小さく笑い、啄むような口づけを交わした。
「何やってんの」
「別に何も」
会話を交わしている間にも、銀時の手の平は既に熱を帯び始めている中心へと滑り降りていった。
ズボン越しに触られるだけで身体と声が小さく震えた。
「もっと感じてよ総悟君」
笑いをこらえ、間延びした囁きは余裕が垣間見え、苛立ちながら総悟は足をばたつかせた。
それでもぎゅっと指先で握り締められると甘い声だけが漏れる。抵抗は軽く飲まれてしまう。
真昼間っから、しかも一応勤務時間中に何をしているんだと一瞬まともな事を考えながらも、実際にはまともにはいられなかった。
素早くベルトに手を掛けて緩める銀時を制止しようとすると、唇を塞がれ深く口づけられた。
角度を変えながら舌を吸い上げ、舐められ、軽く歯を立てられる。身体が震え、鼻から抜ける甘い吐息がひっきりなしに漏れて行く。
「あ……やめ、っだん、な」
「こんなところでやめるなんて、どんな生殺しですかコノヤロー」
余裕があるように見える口振りではあったが、実際の表情には余裕の欠片もなかった。
戦いの中で見せるそれとはちがい、情欲にまみれた表情は未だかつて見たことのない銀時の一面だった。
それを自分が出させているのかと思えば少し愉悦に浸れた。
愉悦という名の独占欲だというのも理解出来た。
腹につくほど熱く反り立つ部分を掴み、ゆるりと撫でた。
既に先端から零れ落ちている先走りの液体が、ぐちゅりと音をたてた。
声を殺し目を閉じ、他人から与えられる快感に溺れそうになりながら、総悟は喉を反らした。
唇を薄く開き、足りない酸素を吸う。声を漏らさないように注意を払いながら。
「あぁっ」
「もっと声出してよ」
「いや、でさぁ」
「何で」
「……みっともねぇ」
「恥ずかしい?」
無言は肯定。
くすりと笑い、銀時は舌で先走りを舐め上げた。
「ちょ、だっ」
「気持ちいだろ?」
先端の割れ目に舌先をゆるくねじ込み、握り締めていた手をゆるりと動かした。
「だめ、でさぁ……っ」
「気持ちよくない?」
「ちが、あ……いっ、くから、で、ああ!」
親指で先端を押さえつけ、素早く搾り出すよう力を込めて掻きあげた。
刹那、高く甘い声を漏らしながら手の平へと熱を吐き出し、総悟は詰めていた息を一気に吐き出した。
身体中で呼吸をしながら今まで感じたこともない快感に、頭がのぼせたようになっていた。
しかし銀時の指先が後ろの孔へと伸びたことに気づきながら、総悟は声をゆるく上げて抵抗するしかできなかった。
「ちょっと、待ってくだせぇ……」
「待てるかっての、そんな状態見せといて。鬼かお前は」
吐き出した熱の残骸を孔へ塗りつけるように指を押しつけた。
人差し指をまず飲み込んだ孔は硬く、ぎっちりと指をくわえ込んだ。
ゆっくり時間を掛ける覚悟で円を描きながら指を押し進めていった。
「俺はね、二度と大事なもんなんて背負わないって決めたときに、二度と人を好きにならねぇって決めてたのよ」
「あ?」
「人を好きになるってのは、いろいろ大変なんだよ。相手を信じなきゃならねぇ」
慣れない異物感に不快感を滲ませる総悟に、銀時は優しく唇を落とした。
描く円を大きくし、指の本数も二本へと増やす。
「相手が例えばどっか行きたいって言い出して、俺を誘ってきたとする。でも、俺は行きたくねぇし、そこは俺の居場所じゃない。だけど俺はそいつといたい。だけどそいつは夢を叶える為にも、行きたい場所へ行く必要がある」
「なに、が言いたい、んでぇ」
「もう、あんな面倒な選択はゴメンだってことだ」
指を抜き取った銀時は己のベルトへと手を伸ばし、素早くそれを引き抜いた。
「お前はそんなこと言い出さねぇだろ、総悟」
「分からねぇですよ」
「いいや、お前は言わないね。お前は此処に護りたいもんがある。あの姉ちゃんとの思い出もあり、今の自分ってのを作り出してくれた人間がいる」
唇が触れる直前まで顔を近づけ、銀時は不敵な笑みを浮かべた。
わかってはいたが、今は完全に銀時が有利な立場に居る。それを見せつけるかのように、威圧的で、でもそこに嫌味は無い笑みを浮かべて。
「だから、ちょうどいい」
何が、と言おうとしたが、突然やってきた痛みと異物感に、声を上げていた。
あてがわれた銀時の先端が、徐々に内側へと侵入していく。その感触と、その違和感が気持ち悪かった。
「やめ、ろっ」
「止めれるかよ、今更」
熱く裂けるような痛みに、目尻に涙が浮かんだ。その涙を唇で拭いながら、銀時は更に奥へと身を押し進めた。
唇を合わせ、互いに口内を貪りながら痛みを必死に紛らわそうとしていた。
銀時に伸ばした手にはきつく力が込められていた。
「力、抜け」
「無理でっ……あ」
がくんと力が抜けた。
代わりに身体に走るのは得も言われぬ快感らしき痺れ。
「そこ、良いんだ」
「え?」
いつの間にか銀時を受け入れ、痛みにも慣れていた。まだ異物感は拭いきれないし、気持ち悪さも残ってはいる。
ふっと鼻で笑い銀時は総悟の耳元で低く囁いた。
「気持ちよくしてやるから」
そう言って銀時はゆっくりと動き出した。
はじめこそ異物感ばかりに気を取られていたが、徐々に気持ち悪さも感じ始めていた。
そうすると、今度は理性がすり減っていくのを感じ始めていた。
銀時は確かに総悟が感じる部分へと刺激を与えた。痛みや不快感を最小限にするために、優しくキスをしながら。
「いっ……、あ……」
先程熱を出したばかりだというのに、身体は既に先程以上の熱を帯びていた。反り立った中心へ銀時の手が触れると、一気に限界は近くなる。
総悟は抱きつくように腕に力を込めた。
「だ、っん……あ」
「名前で、呼べって言ってんだろ?」
音を立ててキスをして銀時は苦笑した。
総悟の顔をのぞき込み、もう一度促した銀時は総悟の額へ唇を落とした。
「ぎ……ん、とき」
顔を真赤に染め小さく呟いた総悟を見て、銀時は息を詰めた。
「あ、ちょ……っ!」
「やべーよ、すげぇくる、これ。俺も限界だわ、コレ。最高の殺し文句じゃね、これ」
「文句、じゃねぇ……ですよ。そんなこと、よりっ」
もう何も考えられなくなりつつあった。
何よりも早く全て吐き出してしまいたくて仕方がない。
身体中で暴れる熱は既に思考を蝕んでいた。
総悟は銀時に自分から口付けると舌を絡めた。それでも足りないと思い、更にきつく腕を回し、角度をかえて深く口づけた。
銀時もそれに応えながら、先程よりも激しく動き始めた。既にお互いの限界は近かったこともある。
「あ……んぅ、ん」
ごくり、と喉を鳴らして唾液を嚥下しながら、総悟は銀時の背に爪を立てた。
「イキそう?」
耳元で囁きながら問われ、がくがくと首を縦に振って総悟は答えた。
「イケよ。そんで、俺以外じゃイケなくなっちまえ。な?」
全部、自分のものになれと言外ににおわせた。
「だん、なっ!」
名前で呼べと言っただろう、と思いながら口にしなかった。
そんな余裕は銀時にも残されていなかったし、それにもう焦る必要はないだろうと自分に言い聞かせていた。
「ぅあぁ……!」
総悟の背が弧を描いた。二度目の熱を吐き出しながら、内部では銀時を逃がさないようにキツク絞めつけた。まるで食い千切るのではないかという程のキツさに、銀時は顔を顰めた。
そしてその刺激にたまらず中へと熱を吐き出す。その熱を感じながら、総悟は薄れゆく意識の中、自分を見て笑っている銀時を見ていた。
目を覚ますと布団の上に寝転がっており、腕枕をされていることに気がついた。そして後ろから抱きしめられていることにも。
「旦那?」
「あ、目ぇ覚めたか。その……大丈夫か?」
何が、と口にしそうになり、先程の事をふと思い出して口を閉じた。
「大丈夫、でさぁ」
暫くの静寂の後、先に口を開いたのは銀時だった。
「何で俺なんかのこと好きになっちゃったの?」
後ろから抱きしめ、うつらうつらと半ば覚醒していない総悟に、銀時は小声で問いかけた。
顔が見えない。
その方がよかった。
「さぁ、何ででしょうねぇ。初めて会った時から、不思議な人だぁとは思ってたんでさぁ」
「へぇ」
「それだけ」
「はい?」
本当にそれだけだった。
何処か遠くをみているし、何処へ行きたいのか分からない。
ただ自分には持っていないモノを持っていて、自分が持っているモノを持っていない。そんな男だろうと、ふと思った。
「なんか随分さっぱりとして、不安になる答えじゃねーかそれ」
「それ以上でもそれ以下でもなかったですから」
肩を震わせて笑うと、銀時は肩を掴んで身体を無理やり反転させた。
黙ったまま、互いに目を見ていた。今は確かに互いを映している。
「ねぇ、旦那」
「ん?」
「ちゃんと、俺のこと見えてますかぃ?」
無言で総悟の目を見つめていた銀時は、ふと目線を反らした。
「見えてるよ。今は」
小さく笑って、総悟は銀時の頬に手を添えると自分から口づけた。
身体がだるいので、この後今日は屯所まで運んでもらおうと思いながら。
「旦那」
「あ?」
「アンタの事を好きになって、丁度二ヶ月でさぁ。」