「あら、何しにきたの」
「久々にあってそれはねぇだろ」
「まだ貴方が来る場所じゃないのに」
「たまにはいいだろ、来れる時ぐらい」
「らしくないこと言うのね」


 朦朧とする意識と、傷だらけの身体は鉛のように重かった。
 うっすらと開けた瞳から見える視界は、見慣れない天井しか無く、でもそれが病院の物だとはすぐに分かった。独特な不健全な匂いと、空気が重たい頭に告げる。
 忙しなく飛び交う声も断片的にしか聞こえない。
 取り敢えず今は眠ろうと思ったので目を閉じた。


「子供は何時までも子供じゃないわよ。信頼した相手に心配されるのは、裏切られたと同義語なのよ」
「アイツを子供っていうかぁ?」
「子供でしょ? だって貴方がそう思ってるんでしょ」
「まぁ、な」
「ご両親が早くに居なくなってしまったとなれば、本来なら受けられるはずの大人からの愛情を普通の子達より全然少なく貰って大人になった。まだまだ周りから貰う愛情が足りてないと、大人になりきれないわよ」
「甘え方もしらねぇしな」
「そうね。人に弱みを見せる方法を知らないから、辛いことを背負ったまま生きていく」
「大分見せてくれたんだぜ?」
「それが貴方を信頼し始めたって証拠だったのよ。なのに貴方は心配しすぎて信頼しきれなかった」
 そう言って彼女は花のように笑った。
「自業自得じゃない」


 手も足も出ないとはこのことなのかと、絶望した。
 それでも力のかぎり殴りにかかり、力のかぎり頭を働かせていた。
 どこかに活路はあるはずだ。その一つの道に行くためには考えることをヤメてはいけない。
 今ここに自分がいられるのは、様々な人の様々な思いと、協力と、自分の信念によるもの、だった。

 そう。

 信念とは、周りの協力もあって貫けていたことで。
 そして、そうだなーー


「今俺は自分が情けねぇよ」
「平和が守れないから?」
「そ」
「貴方らしいわね。この状況でもそう思うんだもの。ホント……何時死んでもおかしくない」
「死なないさ。俺も、誰も。それが俺のヒーローってやつだ」
「昔から何も変わらないのね」
「当たり前だ。今も昔も、それを教えてくれた俺の憧れの存在は俺にそれを教えてくれた」
「そうね。本当、貴方らしい」
「だろ」
「本当……そんな貴方と一緒にいられて幸せだったわ」


 能力を失っても、それでもがむしゃらに拳を振るった。
 当たればいい。
 当たればいい。
 少しでも、奴に傷を負わせられたらいい。
 少しでも、街の市民が胸をなで下ろせたらいい。
 少しでも、アイツの仇に拳をめり込ませることが出来たなら、また笑ってアイツに向かって笑って悪態を吐ける。
 

「そろそろ帰ったほうがいいんじゃない?」
「そうか? 俺はもう少しいたいけどな……折角会えたんだし」
「バカね。早く帰らないと、帰り道なくなるわよ……ああ、そういえば楓は元気?」
「元気も何も、会ってない内に大人になりすぎて相手にされなくなってきてるよ」
「ふふ。子供扱いしすぎてるからよ。レディには誠意を持って接してあげないと」
「そのつもりなんだけどさぁ」
「子供扱いしすぎてるのよ貴方は。楓も、バーナビーくんも」


 身体が言うことを聞かなくなってきた。
 こんなにも身体は重かったのかと疑問にさえ思った。
 もっとトレーニングをサボらなければよかったのか。アイツが言うように。
 アイツ曰く俺達の力は基礎の力が高ければ高いほど、能力発動時の上限が上がるから有利だと言った。
 それもそうだ。
 サボる俺を叱咤してため息を吐いていた。
 背を強打して息ができない。
 意識が飛びそうになるなか、それでも目の前にあるアイツの仇から目を離せられない。
 あの時、俺が飛び出すというミスが招いた結果だ。アイツを信じなかった俺に対する罰だ。
 そう思うと、自然と自嘲の笑みが浮かんだ。
 その時普段は薄暗い視界が、片方だけ開けてマスクが破損したんだと気づいた。
 

「もっと信用してあげなさい。まだ戻って次があるじゃない。その時は素直に謝って、彼を信じてあげなさいよ」
「アイツ、早々許してくれるかなぁ」
「許してくれるわよ。貴方が誠心誠意謝れば。ここまで貴方が来るぐらい頑張ったことは、彼も少しぐらい理解してるわよ」
「そうか?」
「当たり前じゃない。だって貴方達コンビでしょ? そのぐらいの信頼があったから、彼は貴方に裏切られたと思ったのよ。信頼が無いと、裏切られたとかそう云う感情は持たないわよ」
「……そうだな」
「ほら、わかったらさっさと帰る!」
「あーあー、わかったわかったから押すな!」
「まったく。次来るときは……もっと先に来てよね。そんなに頻繁に会いたくないわよ」
「そういうなよ。まぁ次来るときは、俺のトリビュート映像集的な物でももってきてやるよ。バンバン売れて売り切れ続出かもしれねぇけどな!」
「はは、そうね! 待ってるわ。もっと、未来に」
「ああ」
「元気でね」
「ああ……ありがとう」
「こちらこそ、ありがとう。虎徹君」


 もう少しだけ寝ていようと思った。
 久しぶりに得た休暇なんだ、コレは。
 本当なら楓のところに行くための休暇が欲しかったところだったがーー。
 それでも、久しぶりに会いたかった人に会えたのでいいとしようと思いながら、俺は深く眠りに就いた。



Turn out fine.



...end.

12話でのフルボッコ虎徹を見て速攻書きなぐった話。
夢で会えてたらよいなぁ、この夫婦。